運命論者ではないけれど、周りの空気に乗って、フワフワ当て所なく飛んでいて、
気がついたらとんでもないところに着地していた。
そんな感覚が、いつからかずっと続いている。
今の妻との出会いもそうだったのだけれど。何故か気がついたらその人と意気投合していて、一緒に暮らしている。
そこに何の違和感も不自然さも感じない。
いったい誰がそれを操っているんだろう。
今、俺はカナダにいる。何故なんだ?
考えてみたら、それは一年前のイタリア・アレッサンドリアの国際コンクールに審査員としてよばれた時のことだ。
審査員長は35年来の知り合いで、今はワイマールの音楽院で教授をしているトーマス・ミューラー=ペリング。
僕はもっぱら彼と昔話に花を咲かせていたのだけれど、ある晩のテーブルで偶然ノーバート・クラフトと隣席になった。
彼がかつて国際的に活動するギタリストであり、そのシェーファーやティペットなどの優れた演奏のCDも持っていたので、
今はナクソスの録音ディレクター、エンジニアに転身している事にこちらからは何となく触れにくい気持ちがあった。
少し距離をおいて話しているうちに突然、
「君はデンオンから素晴らしいタケミツを出していたよね。あれ、僕に再録させてくれないかな?」
と切り出され、戸惑った。
ナクソスと言えば、それこそアレッサンドリアやGFAなどの優勝者や若手の登竜門レーベル。
まあ、往年のパリ優勝者ではあるが、今や古いキャリア組に属する僕が何故?
でも考えてみれば、この手の音楽には経験、それこそキャリアが必要だ。
僕にもまだまだ出番はあるのだなあ。
引き受けてから気づいたのだけれど、武満さんの遺作に近い「森のなかで」の第2曲のローズデールはトロントのダウンタウン。
カナダに因んだ曲、それをその土地で録音するのも一興だ。
この企画が決まった翌年、つまり今年の春、サンフランシスコからリサイタルのオファーがあった。
4年ぶり3度目のサンフランシスコだ。ちょっと待てよ。
「森のなかで」第3曲のミュアー・ウッズのある場所じゃないか!
という訳で引き受け、リサイタルは12月8日に決まった。
さて、関西人なので話にオチをつけないと終われない。
僕は池袋の近くに住んでいていつも成田空港への行き方に迷う。
荷物の多い時はメトロポリタンからリムジンに乗るのだけれど…
実は、まだ一度も京成スカイライナーを使っていない。試してみるか。
というわけで、池袋から山手線で日暮里に向かった。
電車にゆられていると、隣から何処かで聞いた声が…
そこにパリ時代からの友人、作曲家の北爪道夫さんが座っていた!
北爪さんには武満へのオマージュを書いてもらった仲だ。
というわけで、カナダまで、「何かのご縁」に引っ張られて来た僕でした。
(レコーディング無事終了を祝ってここに記す)